うさみみ短編集
「非番なのに、大変ですよね。佐倉さんも」




彼の横から勤労を労う言葉が返ってきた。振り返ると、そこにはまだ学生とも見分けのつかない警官が立っている。





黒い短髪だが、見た目の幼さから甲子園球児が、不似合いなスーツでも着ている様に見えてしまう。






同僚の渡邊だ。
二十五歳で妻ももうじき一歳になる娘も居る。ゆで卵の様な顔が苦笑を零して、佐倉を見つめた。







「まったくだ。これじゃ親に桜も見せられそうにねえよ。どうせ、今日は帰れないだろうし、報告書も溜まる一方だしな」







後輩に愚痴を零すとことが、自分で情けないと思いつつも、現在のはけ口は、このゆで卵しかない。







「佐倉さんが桜ですか」とつまらない冗談を言っている渡邊だったが、直ぐにそれは掻き消されて、再び会話が戻される。






「ご両親来られてるんですか?」という言葉に小さく頷く。「ああ」






「そっか。それは、タイミング損ねましたね」渡邊は若いのに淡々とまだ残されている、横たわった人間に目を置いた。






新人なのに、よくもまあ真顔で直視出来るもんだ、という佐倉の勝手な感心をよそに、今度は遠巻きに野次馬たちを見つめている。


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