囚われの王子様。



須藤さんと落ち合う約束をしているのは、会社から少し離れたカフェ。


集合時間から30分は遅れている須藤さんは、きっと忙しいんだろうな。

そういえば、連絡先さえも交換してなかった。それくらいはすれば良かったな。


若干後悔しつつも席につき、頼んだコーヒーに口をつけながら読みかけの本を開く。


ずっと読みたかったけど、ハードカバーしか出てなかったから買うか迷っていたこの本。
この前ようやく近くの図書館で見つけて読むのを楽しみにしていた、のに。

全然内容が頭に入ってこない…。


考えてみれば、今まで誰かの彼女のふりなんてしたことない。しかも知らない人の。

まあ、須藤さんは知らない人ってわけじゃないけど。

それでも、知ってることって言ったら会社での業績とか人気だとか。


プライベートのことは全くもって分からない。性格もいまいち掴めてないし。


そんなんで彼女のふり出来るのかな、私。


なんとなく不安になってきたとき、


「悪い」

と、頭上で声が聞こえた。

顔を上げると、そこには仕事終わりの須藤さんの姿が。

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