囚われの王子様。


「香子さん、今夜一緒に飲みに行きません?」


気が緩み始める昼下がり、早速集中力が切れたのか隣の席に座る後輩 神崎 凛(かんざき りん)がふと話しかけてきた。


「いいけど、それって神崎さんとふたりってことよね?」

「えーっと…」


歯切れの悪くなった彼女に『やっぱり』と呟き、逸らした視線をまたパソコンへと向け直す。


「まあ、男の人も来ますけどー…」

「じゃあ、行きません」

「えー!なんでですか?」


なんでですかって、答え知ってたくせに。

まるで断られたことが予想外だったかのようにがっかりとしているが、神崎さんのこの手の誘いを断るのは今日が初めてではない。

むしろ、数え切れないほど断っている。


神崎さんは事あるごとにそういう飲み会、所謂『合コン』に連れ出そうとする。


私を『香子さん』と下の名前で呼び、慕ってくれる可愛い後輩の神崎さんの誘いを断るのは忍びないけれど。

それでも、合コンに行くくらいなら家に戻ってゆっくりしたい。


自分でも思う。

うーん、この考え方なかなか渇いてるなって。

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