そのアトリエは溺愛の檻
「……わかりました。それならば、そちらの件、お受けします。それ以外に選択肢もないようですし。でも、ひとつだけお願いがあります」

「何?」

「カレンダーのために最高の写真をお願いします」

かなり強めの言葉になってしまい、彼は驚いたように目を丸くした。そして一瞬の後に、フッと笑い声が漏れ、彼はそのまま声を上げて笑った。

「何かと思ったら、仕事熱心だね。わかった、『最高』ね。約束するよ。俺のキャリアにかけて、倉橋のカレンダーのために最高の写真を」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、これからよろしくね」


獲物を捕まえた獣のような満足そうな表情で、握手を求められた。私が手を差し出すと、そのまま腕を引かれる。


「わっ」

何事かと思った時には唇が奪われていた。

手で押し返してるのにびくともしない。

「んん、ん」


ダメだと思うのに、金曜の夜の始まりのキスと同じで、だんだんと何も考えられなくなる。

全ての力が抜ける前に、彼の唇が離れ、耳元でそっと囁かれた。


「今後二人の時はあの夜みたいに百音(モネ)って呼ぶから。俺のことも重秋(シゲアキ)って呼んで」


クラクラして、身体に力が入らない。こんなの普段の自分じゃないみたいで、彼の唇には毒でも塗られているのではないかと疑いたくなる。

本当にこれでよかったのか。私の過ちはまだ終わっていなかったのかもしれない。
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