寡黙な御曹司は密かに溺愛している
歩きにくいし、どうしても自分が自分でないような気がする。
それにこの振袖は私が着るには若すぎるのではと思うような可愛らしいピンクの振袖。


そんな居心地の悪い私のことなど気にしないかのように、おじいさんはここに来るまでずっと饒舌だった。


自分の昔話から自慢話。


私に聞いてほしいことが山のようにあるらしく、相槌を打つくらいの私に楽しそうに話を続けていた。



「いやぁそれにしてもこんな日を迎えることができるなんて、まだ夢見心地じゃ」



まるで借りてきた猫のように、部屋の中をキョロキョロと見回しているとおじいさんが突然、そう切り出した。


ここに来るまで一度もそんなこと言わなかったのに。とそんな風に思いながらも私はおじいさんの話をそのまま黙って聞くことにした。


「もっと早くお前には会わなきゃいけなかったな。こんなに大きく育ってくれて嬉しいよ」


コホンと咳を一つしたおじいさん。
ちらっとそちらに視線を移すと、視線が重なる。
そして、口角を少し上げたものの申し訳なさそうに私の振袖に視線を向けた。
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