寡黙な御曹司は密かに溺愛している
「着てくれてありがとうな、よく似合っとるよ。すまなかったな、本当に今まで。わしのことなど恨んでもしょうがないというのに願いを叶えてくれてありがとう」

「……いえ」

そう言うのが精一杯だった。


『気にしないでください。失恋したのでヤケになってお見合いしようと思いました』


とでも言えばこの重い空気もクスッと笑い声に包まれて楽しくなるかもしれない。

でも、そんな軽口を叩いて空気を変えることもできなかった。



そんななんとなく、私たちのどちらもが口を閉ざしてしまった重苦しい空気を変えたのは、仲居さんの「お見えになられました」という一言だった。


ガラガラと襖が開けられる。
そういえば私、今更だけどお見合い相手のこと一切知らない。


もうヤケお見合いのようなものだったから相手のことなんて聞いてなかったけれど、どんな人なんだろう。


出来れば、優しい人がいいな。
そんなことを思いながら襖に目をやった。
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