王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~



一方、ギルバートはここのところ、体に変調を感じていた。
常に頭がすっきりせず、公務にもいまいち身が入らない。
国王は『恋しい人が出来て浮かれているからだ』というけれど、書類を前にして一枚読み切ることもできないのには驚いた。


「俺はどこか悪いのかな。……医者にでも診てもらうか」


医者は従者に言えば呼んできてもらえるが、ギルバートは散歩がてら医師の部屋まで歩いていくことにした。
最近、セオドアとも話ができていない。このすっきりしない感覚は体を動かしていないからではないか、と思い、歩きながら腕を伸ばす。セオドアと剣の手合わせをするのもいいかもしれない。

歩きながら、ギルバートは既視感に襲われた。最近、頻繁にこの廊下を歩いたような気がしたのだ。


「……この部屋」


医師の向かいの部屋は空き部屋だったはずだ。だが、ギルバートの脳裏に、座り心地の良いソファと後ろを向いている女性の姿がぼんやりと浮かんでくる。ゆらゆらと揺れる結った髪のイメージが現れては消えていく。


「なんだっけ。思い出せない。くそっ」


不思議なことに、ギルバートの中からエマの記憶がごっそりとなくなっていた。
あるのは誰かと楽しく話をしながらお茶を飲んだ、というぼんやりした記憶と、そのときの浮き立つような気持ちだけだ。記憶の女性は、シャーリーンと重なっている。

もどかしく頭を振ったギルバートは、医者の部屋をノックした。

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