20代最後の夜は、あなたと
30歳の誕生日
伊勢くんの言った通り、私たちが別れたことに誰も気づかないまま、3月になった。


もうすぐ、伊勢くんは出社しなくなる。


さみしい気持ちもあるけど、今はただ、新生活を無事に迎えられるように祈るだけだ。


今日は送別会で、みんな飲んだくれてひどい騒ぎになっていた。


「紗和、飲んでるか?」


「飲んでるよ。


っていうか、主役がここにいていいの?」


「いいんじゃん?


俺と紗和、遠距離恋愛になるってみんな思っててさ、なんかだましてるみたいでおもしろいな」


耳元で聞く伊勢くんの声は、懐かしくていとおしかった。


「もう、引っ越しの準備進んでるの?」


「だいたいな」


「何か手伝えることあったら、言ってね」


「そんな軽々しく言っていいのか?」


「伊勢くんは、紳士だから平気でしょ」


「男なんて、みんな中身はオオカミみたいなもんだぞ」


おいそこ、いつまでいちゃついてんだ!と外野から野次られ、


「紗和、また連絡するから」


伊勢くんはみんなの輪へ戻っていった。


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