35階から落ちてきた恋
セイロンティーを入れたティーポットにりんごの薄切りを入れて蒸らしている間にりんごをすりおろす。
キッチンに甘酸っぱい香りがふわんと広がる。
温めておいたカップにはちみつとすりおろしりんごを入れて蒸らした紅茶を注げば、『果菜特製アップルティー』の出来上がりだ。

トレイにカップを載せて仕事部屋のソファの横の小さなテーブルに置いた。
進藤さんはまだ寝室で着替えをしているのかここにはいない。

膝を抱えてソファに座り、ほっとひと息つくと進藤さんがまた満足気な笑顔を浮かべて入ってきた。

またあの笑顔。

何かあったのかと聞こうとすると、先に進藤さんが口を開いた。

「そこはすっかり果菜の定位置だな」

そこ?
ああ、ここか。
自分の座るソファを見回して「だって座り心地満点ですもん」と返す。

進藤さんは嬉しそうに笑っていた。

「そうですけど。私何か間違えました?」
いつも通りに勝手に仕事部屋に入って寛いでいたけれど、ちょっと図々しかっただろうか。
彼女でもないのに。

「いや、何も」
そう言って進藤さんはまたさらに笑顔になる。

「ね、今夜はさっきからちょっと変じゃないですか?」

「果菜。俺の隣にいることにも慣れたよな。ここで一緒に過ごすことにもさ」

私の質問には答えるつもりがないのか。一方的に話が進んでいるような気がする。

< 111 / 198 >

この作品をシェア

pagetop