35階から落ちてきた恋
いつもの進藤さんじゃないみたい。
進藤さんもマスコミ対応で疲れているのだろう。

私は彼の頬にそっと触れる。
「疲れてますよね。私は大丈夫ですよ。進藤さんにしっかり守ってもらってます。だから、そんな顔をしないで。私ね、もともと家で過ごすのが好きなんですよ。木田川さんが西隼人のドラマのDVDを持ってきてくれましたし、読みたかった小説もゆっくり読めます。だから、心配しないで」

「果菜」

進藤さんに引き寄せられて大きな胸に抱かれる。

「こんなことになるって知っていたのに果菜のこと手に入れたかった。ごめん」

「私はホントに大丈夫ですってば。違う環境に戸惑ってるだけです。ヒロトさんの奥さんとも仲良くなることができたし、進藤さんと一緒に過ごす時間も多いしそれなりに得るものもあるんですよ」

彼の背に手をまわしてポンポンとすると私を抱きしめる腕に力がこもった。

「弱音を吐いてもいいのに」

「そうなったら言いますから」

「そうしてくれ。果菜を一人で泣かせたくない」

「私も一人で泣きたくありませんから、ちゃんと進藤さんを巻き込みます」
へへっと笑うと唇が温かいもので塞がれた。
こうしていつも甘やかしてくれるから私は大丈夫。
大好きな人と一緒にいられる幸せは身動きの取れない一時的な息苦しさなど吹っ飛ばしてくれるほどなのだから。



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