35階から落ちてきた恋
片付けをしていると先生のスマホが鳴りはじめる。

「もしもし?ああ、木田川か。どうした?え?発熱?」

ああ、どうやら先生の知人のどなたかの体調が悪いらしい。

「ああ、わかった。そっちに向かうよ」

あらら、こんな時間に往診。
電話を切った木下先生は私にすまなそうな顔をした。

「高校の時の同級生に往診を頼まれたんだけど。ちょっと事情があって困ってるみたいだから水沢さん、一緒に行ってもらえる?」

「・・・困ってるって聞いちゃったら、もう行くしかないですね」

私は手早く往診の支度をして、白衣の上にコートを羽織った。

「終わったらそのままお宅に送るから、私服と荷物も持って駐車場に出てきて」

先生の指示に従って両手に荷物を抱えてクリニックを出て駐車場に向かう。疲れているけど、こればっかりは医療従事者の宿命。具合が悪い人がいるって聞いてしまったらほっとくなんてできるはずがない。


「あれ?先生、ここって」

連れて来られたのは有名なコンサートホール。

「うん、明日やるコンサートだかライブだかの関係者らしいんだよね。俺の同級生が芸能事務所に勤めてて。目立たないようにしたいんだそうだよ。大きな病院の救急外来受診とかに行って騒ぎになると困るらしくて俺たちが呼ばれたんだ」
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