35階から落ちてきた恋
「その、人目とかマスコミとか」

だって、有名人だよ。ちょっと前までは私はお顔を知らなかったですけど、さっきだって待合室はざわついていたし、スタッフたちは進藤さんのことみんな知ってるみたいだった。

「ああ、そっちか。それは問題ないだろ。セキュリティ万全のマンションだから。それにバレても構わない。俺は隠すつもりがないから。それより果菜が心配してるのは1人暮らしの男の部屋に上がるってことの方だと思ったよ」

え。
ああそうか。
そうだった。普通若い女性が気になるのはそっちだ。
言われて気が付くなんて私ってなんてうっかり者だろう。

「・・・そうでした。ええと、今更ですけど、どうして進藤さんちに」

ぷっと吹き出し「やっぱり、果菜って面白い」と私の頭をポンとした。

「果菜って目の前の仕事をしてる時とプライベートのテンポが違うって言われないか?」

「言われたことありますね。確かに。自分じゃわからないんですけど」

「それ、木田川さんも言ってたんだよ。往診頼んで、二人が到着したと思ったらすごい勢いで果菜が動き出して。木下先生が何も言わないのに次から次へと準備して診察の手伝いしながら、あっという間に採血して点滴もしていたって。なのにホテルの部屋で会話してるときとかたまにピントがずれてたとか」

いや、そんなことはないはず。
「木田川さんが果菜のこと木下先生に聞いたらいつも先に先にとこっちの意図を読んでくれて果菜とだと仕事がしやすいって言ってったって聞いて頷いたよ」

「それは私だけじゃないですよ」
「まあ、その件に関して謙遜はいいや。それより、果菜の仕事以外の察しの悪さは何?」

「何か?何の察しが悪いですか?わたし」
私、何かしましたっけ?
どちらかというと私は何かしたのではなくされた側なんですけど。

「俺に関して悪いだろ」

進藤さんに関して・・・?


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