35階から落ちてきた恋
私の右手を取って自分に引き寄せるから私の身体は進藤さんの腕の中にすっぽりと納まってしまう。

両腕でしっかりと私を抱え込んで「果菜、会いたかった」と囁く。
途端に先日のスイートルームのベッドの中の出来事が脳裏によみがえる。

ダメ、ダメ。
またからかってる。

温かい、進藤さんの体温が伝わってくる。
けど、騙されちゃダメ。

「そんな冗談にもうだまされませんよ」

ぐいっと両手を突っ張って進藤さんの胸を押して抜け出した。

「何だよ、冗談って」
進藤さんが心外だとでもいうように眉間にしわを寄せる。

「だから、この間も言ったでしょ。私が特別みたいな言い方ですよ。そういうのって良くないです。今も距離が近すぎです。おまけに会いたかったなんて言ったら普通勘違いしますよ。いくら進藤さんが芸能人で女性慣れしてるからってこっちは違うんですからね」

私がムッとした顔をすると進藤さんはため息をついた。

「お前の中で俺はどんな男になってるんだよ」

どんな男って。・・・そういう男でしょ。黙っていても女性が寄ってくる。女性に困らない。

私の表情で感じ取ったらしい進藤さんは「あーもういいよ。わかった」と私から離れてソファに座った。

何がもういいよなんだか。
からかわないで欲しい。
私も不貞腐れた顔をしてソファの端に座る。

「時間かけていくことにする」

はあ?「何にですか」と言った私の言葉は無視された。
もう、ホントにわけわからない。



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