はちみつ・lover
ふと頭上から声がする。見上げると担当の

医師が立っていた。

「先生・・・飛鳥は、飛鳥はどうなったん

ですか!?」

私はその先生に掴みかかった。先生が私の

剣幕に仰け反っている。止まっていた涙が

再び溢れ出した。

「せんせぇ、私・・・彼と一緒にいたいん

です。お願いします。助けてください」

彼は救急車の中でもずっと意識を失ってい

た。心臓は止まる事なく動いていたが、私

はいつ彼の心肺が停止するのだろうとヒヤ

ヒヤして生きた心地がしなかった。

「落ち着いてください、倉持さん。大丈夫

です。彼は幸い致命傷を負っていないので、

まず命を落とすような事はないですよ」

その言葉を聞いて、凍えるほど冷たかった手

が、じんわり温かくなっていくのを感じ

る。私はその場で泣き崩れた。


翌朝、私は彼がいる病室に足を踏み入れ

た。病院で一夜を明かしたせいか、トイレ

の鏡で顔を見たらクマが出来ていた。ろく

に睡眠をとっていなかったからだ。


「・・・ん、い・・・たた。ここ・・・ど

こ?」
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