はちみつ・lover
彼は自分が置かれている状況が分からない

らしい。優しく口づけると静かな声で語り

掛けた。

「あのね、飛鳥。飛鳥は昨日、大型トラッ

クにひかれたの。それで今は病室にいる」

彼が目を丸くしてこっちを見る。段々と状況

が分かってきたのか頭を抱え始めた。

「そうだ、俺・・・調子に乗ってのろけて

たらひかれてたんですよね。やらかした

な~」

彼は普段通り話せている。全身打撲、左の

腕と足を骨折、それから頭を強く打ったけ

れど、そのどれもが致命傷には至らなかっ

たらしい。何て運のいい人間なんだろう。

「バカ!心配したんだから」

「あ、葵さん。い、痛いです」

私は喜びと心配させられた怒りとで彼に抱

きついた。止めようと思っても涙が溢れてし

まい、彼があたふたしている。

「ご、ごめん。そういえば打撲してたね」

「あぁ、そうなんですね。やけに全身痛い

と思いましたよ」

彼が普段見せる笑顔を見られて、胸がいっ

ぱいになる。こんなに愛しい人を失うの

は、何よりも怖い。今までよりもずっと、彼

の事を大切にしようと心に決めた。
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