花と蝶
嬪御
闇夜に紛れて後宮に女籠が入ってきた。
それを首を長くして待っていたのは、君王・欣宗だった。輿持ちの宦官がいそいそとやってくると欣宗の顔が自然と笑に変わった。
お付きの金尚膳が欣宗のもとにやってくると彼に嬉しそうに告げた。
「正嬪媽媽がお越しになりました」
「そうか…そうか…」
女輿が欣宗の前に止まる。中から桃色のチョゴリを纏った女人が出てきた。
この女人を欣宗は待っていた。
「主上殿下」
「正嬪、よくぞ参った。すまぬな、このような夜に入宮させるとは…」
「仕方ありません」
正嬪は涼しい声で言った。
月明かりに照らされて正嬪の顔は青白く見えた。それを見た欣宗が言った。
「移動の疲れか?顔色が悪い。そなたのために新たな殿閣を用意した」
「たかが嬪御のために新たな殿閣など…中殿媽媽や他の嬪御に疎まれます」
「構わぬ。私がそなたを守ろう」
欣宗は正嬪の手を取り殿閣へと向かった。
その途中で正嬪を迎えたの無数の灯りで、彼女はその中で歩いた。後宮は寝静まっていなかった。
当直の内人や尚宮が夜中に入宮した正嬪を殿閣から盗み見ている。あるものは声を潜め、あるものは指をさした。
正嬪は自分がいかに注目の的で、噂の対象かわかった。しかし、正嬪は気にしないようにした。
気にしては後宮に飲み込まれてしまう気がしたからだ。
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