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完全に思考回路が停止してしまっているわたしには、この場合なんと答えたらいいのかが分からなかった。

居心地の悪さから視線を外そうとするのに、その視線から逃れることが出来ないのは、ハル先輩が真っ直ぐとわたしを見つめているから。


「ダメ?」

「っ、」


追い討ちをかける様に畳み掛けてくる辺り、ハル先輩は人との距離感を読むのが上手い人なのだと思う。

そうする事で、嫌とは言えない状況を作り出すから。

そしてわたしが断らない——いや、断れないタイプの人間である事を瞬時に見抜いたのだろう。

自分という存在が周囲の人間に一目置かれ、愛され、受け入れられると言う事実が彼にとっては当たり前すぎて、自然と仲良くなりたいから名前で呼んでいいかという発想になるのだろう。

それはまるで、小さな子供の様な純粋さを秘めていた。

だけどわたしは違う。

その距離感の縮め方はわたしの中には無い発想で、それに対して”はい”と答える勇気はわたしには無い。

だからこそ、”ダメ?”という簡単な答えにも躊躇してしまうのだ。

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