back number
まさか自分があのハル先輩とメッセージアプリで繋がる事になるとは、夢にも思っていなかった。

まるで現実味のないこの現状にどうしたものかと今更ながら狼狽える。


「シキ」

「っ、」


その声に名前を呼ばれた途端、まるで胸を鷲掴みにされた様な感覚を覚えた。

ごちゃごちゃと考え込んでいたのが嘘の様に、それは紙切れの如くどこかに吹き飛んでしまう。

耳心地の良いクリアなその声がわたしの中に刺さって抜けない。

昨日まで話したこともないあのハル先輩に、”シキ”と名前を呼び捨てにされた事で完全に思考回路が停止した。


「——って呼んでいい?」


そこで思わず鼓膜を震わすその声の持ち主と視線が絡む。


「っ、」


だけどその問いに対する答えを持ち合わせていないわたしは、ヘラヘラと笑って誤魔化すことしか出来ずにいた。

だって頷いてしまえば、あのハル先輩から名前を呼び捨てにされるという事は、”その他大勢の内の一人”では居られなくなる恐れがあるからだ。

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