黙ってギュッと抱きしめて
 涙の波がどっと押し寄せた。

「うわ…号泣…。」
「だ、だって…遥のせい…。」
「うん。俺のせいでいい。俺のせいで泣くってことは、どういうことか考えて。」
「どういうことって…。」
「怖いんだよな。わかる。幼馴染だったから。もう戻れないってどうしても考える。でも…。」

 遥がそっと、翼の手を取った。

「…翼がいい。翼じゃなきゃ大切にしてやれないんだ。大切だって思えない。」

 真っ直ぐな目が、翼を射貫く。ずっとずっと、当たり前みたいに傍にいた人が、当たり前じゃない顔をしている。

「…私が、大切?」
「うん。」
「私も、遥が大切…だよ…。」
「大切にしたいって、思える?」

 翼は静かに頷いた。大切にしたいと思える人だ。間違いなく。

「それってどういうことだと思う?」
「え?」
「特別に大切にしたい人への気持ちを2文字で言い表しましょう、翼ちゃん。」
「…2文字…?」
「激ニブ。」
「ひ、ひど!な、泣きすぎて頭が痛くて…。」
「逃げんな。」
「っ…。」

 きゅっと強く、手を握られる。

「俺も逃げないことにしたから。」

 幼馴染という関係は、どこまでいってもきっと幼馴染だ。言いたいことを言い合って、ふざけて、でもすぐにごめんねと言える。そしてすぐに仲直りできる。だけど恋人は違う。脆くて儚くて、壊れやすい。そして一度壊してしまったら二度とは戻れない。

「…遥は、私のこと、嫌いにならないの?」
「…自信がないにも程があるだろ。ならない。」
「私はどうしたらいいの?」
「傍にいたいの、いたくないの?それくらいは自分で選べ。」
「…傍にいたい、よ。独りは嫌、だし。」

 そっと、遥の胸にもたれた。独りになるのは嫌だ。そして、上手くいかない恋愛を繰り返すことも。
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