黙ってギュッと抱きしめて
* * *

「眠い…。」
「寝ていいよ。疲れただろ?」
「…遥は疲れてないの?」
「疲れたけど、なんていうか…疲れを凌駕する…喜び?」
「…体力オバケめ。」

 眠たくなって、遥に背を向けた。すると、覆いかぶさるように手が伸びてくる。

「何で背中向けんの。」
「…寝るから。」
「別にこっち向いたまま寝ればいいじゃん。」
「寝顔!嫌だから!」
「寝顔よりいい顔見たんだから今更寝顔なんてどうでもいいだろ?」
「どうでもよくないもん!」
「いいからこっち向け。」
「うわ!」

 半ば強制的にぐるりと身体の向きを変えられた。少し目線を上げるだけで視線がぶつかるくらいの距離にいる。

「…顔近付くとキスしたくなるな。」
「…し、た…けど。これでもかってくらい。」
「…どんだけ我慢したと思ってんの。」
「そ、れは…今更ながら悪かったと思ってるけど…。」
「じゃあ唇貸して。」
「ん!」

 貸して、いいよ、というやり取りはできなかった。小さなキスが落ちてくる。何度も離れて、何度も重なる。

「ひゃあ!」
「ほっぺ、苦手?」
「くすぐったい!なんだろ、耳に息かかるからかな?」
「耳が弱いんだ。」
「きゃあ!」

 耳に落ちたキスに変な声が出た。

「色気ゼロ。」
「う、だって…いきなりだし!」
「いいこと知った。翼は耳が弱い。あと不意打ちにも弱い。」
「いらないこと知ったー!遥は黙ってギュッと抱きしめて!」
「…はいはい。」

 世界で一番安心できる腕が、翼の身体をギュッと抱きしめてくれる。

「…黙ってギュッとしてあげましたけど、成功報酬は?」
「…何がいいの?」
「あと1回やらせてくれる?」
「ば、バカ!」

*fin*
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