黙ってギュッと抱きしめて
* * *

 ソファーに腰掛けて、ビールを片手にぼんやりとテレビを眺める。すると、風呂を終えた遥が戻ってきた。冷蔵庫から同じビールを出し、それを開けるとプシュッと音がした。一口煽って、翼の隣に腰掛ける。翼がビールを置いたのとほぼ同時に、遥もビールをテーブルの上に置いた。

「…翼。」
「ひゃい!」
「…緊張しすぎ。動きが完全に不審者。」
「…だ、だって…。遥の家に泊まるの、は、初めてだし…。」
「うん。すげー変な感じがする。」
「うわ!」

 伸びてきた温い腕が、翼を抱きしめる。遥の鼻が、耳のすぐ近くにあるのが呼吸でわかる。

「…翼から俺の家の匂いがする。」
「…それ、不可抗力だよ。」
「…やべーなって話。」
「え?」

 目を閉じる暇もないくらい突然に降ってきたキス。

「っ…!」

 何か言おうとした翼の唇は、言葉まで一緒に遥の唇に飲まれていく。触れるだけのキスが、少しずつ深いものに変わっていく。それにいつの間にか応じている自分がいて、それにも驚く。

「…翼。」
「な…に…?」
「もっとして、いい?」

 余裕のない表情。そしてかすれた声。逃げられないし、逃げようとも思っていない自分。
 翼はそっと、遥の首に腕を回して自分から口付けた。

「…なにそれ。可愛すぎんだろ。はい、場所変更。こっちおいで。」

 手を引かれて連れて行かれた先は、ベッドの上。
 先に遥が腰掛け、手招きをする。それに導かれるように、翼はその隣に座った。

「もうちょっと唇堪能させて。」

 再び重なる唇に、翼は目を閉じた。優しく甘く重なり、続くキスが解けると、また強く抱きしめられた。そのまま翼もそっと抱きしめ返す。

「抱きしめ返すなら、翼の全部をもらうって決めてた。」
「…うん。全部あげるから、…遥の気持ちを全部ちょうだい?」
「…今更あげるもんでもないけど。…やるよ。だから、もらう。」

 触れる指が優しくて、泣きそうになる。重ねた言葉も、キスも、全てが愛おしく思える。

「…翼。」
「なに?」
「…好き。…言ってなかったから。」

 照れた顔で遥はそう言った。
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