黙ってギュッと抱きしめて
「今日、何鍋?」
「白菜鍋!」
「へぇ、美味そうじゃん。」

 遥がビールを一本開けている間にさっと準備をして、早速残念会が始まった。

「いただきます。」
「いっただきまーす!」

 白湯ベースの黒コショウが効いた出汁は冷えた身体にしみた。白菜が口の中でほろほろと溶けていく。

「野菜が高くてさー!遥、もっと食べるよね?」
「ん。もらう。」
「足すわ。」

 華奢なくせに豪快に食べる遥は、量も結構食べる。あっという間に鍋の中身がかっさらわれてしまう。

「んまい。」
「簡単なのに美味しいのが鍋のいいところだよね。」
「料理下手なの隠せるじゃん。」
「遥より上手くないだけで、別に下手じゃないから。」
「ふーん?」
「ってそんな意地悪言わせるために呼んだんじゃないから!聞いてよ!」
「うん。話していいよ。」

 食べるのを止め、ゆっくりと翼に目を合わせてくれる。

「とりあえず、別れました。」
「聞きました、それ。原因は?」
「性格の不一致…だと思います。」
「半年くらいだっけ、続いたの。」
「うん。」
「そっか。」
「周りは結婚ラッシュだっていうのに、私だけ乗れない、そのラッシュ。」
「乗りたいの、そのラッシュ?」
「…そこが、わかんないんだよね。」

 結婚しますラインのときにもあったモヤモヤ。自分の気持ちは自分だけのものなのに、その自分が理解してあげられない部分。理解できないからなのか、それとも考えることを拒否しているからなのかはわからない。

「うん。」

 遥は真っすぐに話を聞いてくれているようだ。

「結婚したいのかって言われたら、したくないとは思わない。でも、誰とって言われたら思い浮かばない。そして元カレに未練とかないけど、でも恋愛することにも疲れた。」

 あまりにもすとんと零れ落ちてきた本音。
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