チョコミントの奇跡
でも、友達としてたくさん話はした。
好きな食べ物は?とか、好きな芸能人は?とか…
でも、神谷の記憶に俺が残っているとは思えない。
いがぐり頭で野球バカの俺なんて、きっと神谷は覚えていない。
会議が終わり、俺は神谷の教えてくれた会社の場所をスマホで調べてみた。
あんなに大好きだった神谷がこんな近くにいたなんて、これは奇跡以外の何ものでもない。
でも、その前に、ケーキを何とかしなくちゃ…
神谷が恋人のために作ったケーキを超えるものなどきっとないけれど、でも、神谷のホッとした顔が見たい。
「小林さん、ちょっと教えてほしいんだけど」
俺は会社一情報通のアラサー女子の小林さんに声をかけた。
「この辺りで一番美味しいケーキ屋さんってどこか知ってる?」
俺は小林さんに本当に感謝している。
だって、その後の小林さんのすばやい協力的な行動で、俺は、この界隈ではナンバーワンと言われているお店のチョコレートケーキををゲットできたのだから。
「でも、秋山君、バレンタインって普通は女の子からもらうものなんじゃないの?」
「あ、いや、ちょっとわけありで…」
そして、俺は、そのケーキを夕方の五時半に取りに行く約束をした。