駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

表情1つ変えずに、いつも澄ました顔でいくつもの仕事をこなし、疲れもピークにくる金曜には後腐れのない女、いや、彼女と呼ぼう。その彼女に会う為に定時で仕事を切り上げて、彼女の前だけ男の顔を見せていた彼が今、警戒心のない緩んだ寝顔で目の前にいる。


歴代の彼女達も、この表情を見てきたのだろう…


そしていつか私も歴代の彼女達の仲間入り!


わかっていた事なのに、わかっていなかった。


関係が終わった時、私は彼女達のように後腐れなく別れを受け入れられないだろう。


彼の彼女と言う名を手に入れ、肌の温もりを知り貪欲になるのは私だけだろうか?


彼女達は、このままずっと側にいたい
心もほしいと思わなかったのだろうか?


別れが見えている関係は、欲張ると危険だ。
心も体も全てほしいと欲張った途端に終わってしまう。


だが、欲張らなければ甘い関係がまだ続く。


抱かれる腕の中で、好きだと心が叫ぶ度に辛さから自然と潤んだ目。


抱かれる度に声に出せない叫びが、これからも涙を流すのだ。


愚かな駆け引きをしたばかりに、好きだと告げれない切なさから苦しい恋だと思い知る。でも今は…彼女でいる間は…私だけを見てくれるなら、それでもいいと思ってしまう愚かな女だった。
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