月が綺麗ですね
「やっと笑ったな」

「えっ?」


「営業時代の風花は良く笑っていた。しかし秘書室へ転属になってからは笑顔が消えていた気がする。特に俺の前では」

「...そうでしたか?」

確かに副社長の前では緊張していたし、言われる通り笑ったことはなかった気がしてきた。

ってか、笑う場面なんてなかったし。

それに...。


「副社長のファーストインプレッションは最悪でしたから」

正直に自分の思いを私は言えるようになっていた。


「...あれは俺もやり過ぎたと思っていた。ただ、最初からデレデレ出来ないだろう?飯塚もいたし」

「二人きりの時だって、ささやかな歓迎会の時だって冷たかったです」

「女って下らないこと憶えているな...」


困ったような表情で彼は頭をかきながらも、その表情は微笑んでいる。


「ラベンダーオイル、俺の分も買ってきたほうが良かったようだな」

「えっと、嫌味のつもりではないんです」


訴えるように私は彼のシャツの腕をキュッと握った。


「分かっているさ」


長い指は私の髪を遊ぶように触り始める。


「私、副社長の前では緊張してしまって上手く喋れないこともありました」

「俺も緊張してたんだ。風花を目の前にして」


まさか...?


「だから、少し冷たい言い方になっていたかも知れないな。しかし社内ではあれが普通だ」
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