月が綺麗ですね
「教えてくれ、あの日何があった。どうしてお前は姿を消して、菱倉のマンションに行ったんだっ!?マンションでは何も無かったんだろうなっ!?」

「...それは...あなたの本心が知れたからです」

「俺の本心だって!?」


徹さんの声は戸惑っている。


「ますますわけが分からない。俺はお前を苦しいくらい愛している。あの時もそう言ったはずだ。その本心が知れたとして、どうしてお前がいなくなる?
完全に矛盾してるじゃないかっ!?」


イライラしたように私の手首を解放する。


「...それとも俺が眠ってしまって怒ったのか?」

「違いますっ!!」


私は声を荒くした。


「そんなわけないじゃないですかっ!!」


豹変した私に彼は驚いたようだった。


「じゃあなんでだ?...それからお前が置いて行った...指輪」

彼はポケットから指輪を出した。それはぼんやりとだけれど、彼の大きな手のひらの中に見えた。


「いりません。お返しします」


暗がりの中で、彼のため息が聞こえた。それは悲しみをまとったように聞こえて、私の心をグラつかせる。




「だって、徹さんは香奈子さんを愛しているでしょう?」

「愛している?まあ、そう言われればそうだが...」


ほらやっぱり。


「ちょっと待て、香奈は俺の妹として愛している」


今更、どうして嘘をつくの?

徹さんはひとりっ子なのに。それは噂とかじゃなくて、れっきとした事実。


悲しみを通り越して、もはや呆れる。


「菱倉とは何も無かったんだろうな?他の男がお前に触れるなど絶対に許さない。風花は俺だけのものだ」


熱のこもった声は私の心を揺さぶる。からだの奥まで熱くなるような錯覚に溺れてしまいそう。

けれど、私は心とは裏腹のセリフを吐いていた。それは彼に対する二番手の女の抵抗。
男はあなただけじゃないんですよ。って。


「もし私と弘くんがキスしてたらどうするんですか?」
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