月が綺麗ですね
二人で歩行者天国を歩いていた。銀座の歩行者天国は歴史が古いらしい。昭和45年頃から始まって、確か一時中断されて復活したんじゃなかったっけ?

子供たちは都会に突然出没した広い空間に喜んで走りまわっている。それを見守るお父さんとお母さん。はたまたおじいちゃん、おばあちゃん。幸せそうな日常がそこにはあった。

そして若い夫婦に、肩を寄せ合うカップル。私たちみたいな友達同士の二人連れ。

私も徹さんと手をつないでショッピングしたいな。彼に似合うネクタイを選んであげたいし、デパ地下でアイスを買って二人でシェアしたり、ちょっぴり贅沢なランチをおねだりしたり。のんびりと休日の歩行者天国を楽しみたい。


ため息交じりの妄想にふけっていると、弘くんが話しかけてきた。


「お前、田舎に帰らなくていいの?」

「うん。両親は仕事の関係で関西に転勤してて帰って来ないって言ってたし、弟は大学のサークル合宿だから、実家に帰っても誰もいないの」


「風花の故郷、興味あるな」

「そう?」

「だって、杜の都だろ?」

「うん、屋敷林とか神社仏閣の林でしょ、昔から仙台の人たちが年月をかけて育てて来た豊かな緑。それは私たちの誇りでもあるの」


東京に憧れて出て来たけれど、こうして話をすると急に恋しくなる。それが故郷なのかも知れない。

「弘くんこそ実家に帰らなくていいの?」
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