月が綺麗ですね
そっと西山さんを見ると、彼女は困った顔をしている。
それはそうだろう。いきなりサンプル用のスーツを、しかも3着も貰うと言っているのだから。


副社長は眼鏡のフレームに指をあてて、その角度を直すと、


「もし必要な時は彼女に声を掛けて下さい。まあそんなことは無いと思いますが」

「そ、それはそうですが。しかし...」


たじろぐ西山さんを一瞥すると、副社長は私に向き直った。


「時間がない。行くぞ、進藤」

「えっ。は、はい」


強引に会話を打ち切ると、副社長はもと来た道を引き返す。

私は西山さんに一礼すると、彼の背中を追った。私の背中からは西山さんの諦めにも似たため息が聞こえたのだった。
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