月が綺麗ですね
「目が赤いぞ、泣いたのか?」

「えっ?」

「それに、頬に涙の跡もある」


はっ!?


私は慌てて頬をグーでこする。


「遅れた理由はそれか...」


まるで、私の涙から全てを察したように副社長はため息をついた。そしてそっと白く長い指が頬に触れる。


「俺の女になれ。そうしたらお前を守ってやれる」


えっ...だからそれは...。


頬は朱に染まり、ドクンドクンと叩かれるような激しい鼓動が私を襲う。
目の前にいる人を嫌が上にも意識してしまう。

どこに視線を向けていいのか分からず、彼の靴をじっと見つめることしか出来ない。


「女同士の喧嘩やいさかいには、男が首を突っ込まないほうがいいのは経験で知っている。かえって面倒なことになるからな」


大きな手は私の頬から髪へとゆっくりと移動する。

呼吸が激しくなるのを隠すように、私はギュッと口を結ぶ。
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