優しいスパイス
「しーえ! 見て見てこれ! 昨日二人で撮った天体写真、結構いい感じじゃない?」



香恋がヒョイっと後ろから顔を覗かせて、手に持った写真を私の顔の前に掲げた。



写っているのは、望遠レンズで撮った月の表面の写真。



「ほんとだ、綺麗に写ってるね」



そう言ってふり向こうとしたら、「わっ」と短い香恋の声が聞こえて、香恋の体が私から離れた。



「俺と一緒に撮った写真も結構イケてるよ」



振り返ると、春木先輩が片手で香恋を後ろから抱き寄せて、もう片方の手で写真をヒラヒラとなびかせている。



「ちょ、春木先輩! サークル中に、やめてくださいよ」


「春木じゃなくて、俊。名前で呼んでっていつも言ってんじゃん」


「っ……み、みんなの前では恥ずかしいし……」


「そう? じゃあ後で二人きりになってからな」








二人が付き合い始めてから、二週間が経った。



サークル中。


こんなラブラブっぷりを披露する二人にも。

それを見てニヤニヤする先輩たちにも。


もう慣れた。



湧き上がりそうになる何かは、すぐに抑え込めばいい。



平常心を装って、微笑ましそうな顔を作って、周りの人と同じように、笑って二人を見る。



もう、何度も同じことをやった。



意外と簡単に出来ることだった。
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