優しいスパイス






「好きだ。付き合ってほしい」









大学のだだっ広い講義室に二人きり。



窓から差し込む夕焼けのオレンジが、先輩の整った顔を照らしてる。




柔らかそうな栗色の髪から覗く、真剣な眼差し。


いつもの明るく澄んだ声より少しだけ低めな掠れ声。





こんなことってあるんだ。

……なんて、妙に冷静な自分。






「……ごめんなさい。あたしは、先輩とは付き合えません」



「なんで? 俺のこと好きって言ってたじゃん」


「……え?」


「覚えてねーの? 昨日の飲み会の帰りに言ってた」




暦の上では初夏だというのに、冷たい空気が刺さった気がした。




そう、なの……?




流れている沈黙に、足が震える。




心臓が急ピッチで音をたて始める。





「俺、両想いだと思ってすげー舞い上がってたのに」


「よ、酔ってたんです……忘れてください」


「忘れられるわけねーじゃん。あれは何? 俺をからかってた?」


「そんな……」


「ねぇ、本当の気持ち聞かせてよ」


「……付き合えません」


「好きじゃないってこと?」


「……それは……」


「ちゃんと教えて。昨日のは嘘?」


「えっと……」


「ねぇ。お願いだから、俺のことどう思ってるかはっきり教えて」


「…………す、き、です」


「じゃあ、」


「でも、付き合えません」
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