優しいスパイス
胸の奥がぎゅっと切なく痛む。



嬉しいのか悲しいのかわからない感情が、喉の奥からこみ上げてくる。



どうして。


なんで。



そんな言葉ばかり、心の中で彼に問いかけている。



今すぐにでも振り返って彼を責め立てたいのに、まだ、振り返ることができない。


まだ、確かめたくない。






「あった! これだわ!」



ずっと机の上を漁っていた黒服の女が、一枚の紙を手に取り言った。



「用事は済んだわ。長居してごめんね」



そう言って彼女が私に視線を向けると、私の後ろにいる人物に気付いて目を丸くした。



「あれ? いつの間にそこに?」


「部屋の電気がついたから」



背後から聞き慣れた低い声が答える。



「あー、心配して来てくれたんだ」



にこっと彼女が笑うと、スッと掴まれていた右手から手が離れた。




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