拘束時間   〜 追憶の絆 〜
電話は叔父さんからだった。

俺の祖父で会長、親父と叔父さんの父親である『戸川 理玖斗』の訃報を知らせる電話だった。

祖父はだいぶ前に社長の座を親父に譲って、1年前から病床に伏していた。

「そろそろだと覚悟はしてたんだけどな.......」

「うん......」

叔父さんと俺は会社ということもあり、極めて平静を装ってはいたが。それでも憔悴した顔は隠せず、互いへ落胆した胸の内をさらけ出していた。

祖父の葬儀が終わって間も無く、俺は親父に呼ばれて『personal advertise』の、本社に出向いた。

社長室の椅子に座る親父は、今は自分の父親では無く”CEO”どんな業務命令が降されても俺は財閥の一員として従う他はない。

「怜斗、会長が亡くなった今。我が社は早急に次期後継者を育てなければならない。ひいては、お前を早々にカナダ支社に送り、3年後には支社長に就任してもらう。そして、その後に。今、俺が座っている席をお前に譲る。」

「......はい」

沙綾とのことがあった俺は、歯切れの悪い返事を親父に返した。

「......彼女へプロポーズはしたのか?」

「今は、その話は......」

俺の陰った反応をみて察しがついた親父は、それ以上追求してくることはなかった。ただ一言、

「お前は俺に似たのかもしれないな......」

そう言って、窓の外を眺めた。

祖父の葬儀やカナダ行きの件で、しばらく目まぐるしい日々を送っていた俺は沙綾を迎えに、彼女の故郷であり優斗の墓がある街へ行けないままでいた。

そして、とどめを刺すように。カナダ行きは早まり、祖父の死から2週間という早さで俺は旅立つことを余儀無くされた。

愛情の制約は無くても、運命が俺と沙綾を引き離そうとしているのか......?

御曹司という立場など、いっそ打ち捨てて今すぐ彼女を迎えに行きたい ーー。

だけど、そんな無責任なことをする男が沙綾を幸せに出来ると思うか?

ーー これが最後の砦。

社長に就任したら、必ずこの指輪を彼女へ贈る。

俺は彼女への婚約指輪を持って、独りカナダへと旅立った......。

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