拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 彼の瞳の中に揺らめくキャンドルの炎を見つめていたら、その炎が私の心に引火してしまったみたい。

 たった二言の返事で、戸川君と私は”恋人同士”になった......。

 「俺、すごく嬉しいよ!沙綾ちゃんが俺の彼女になってくれて。.......大切にする」

 いつも落ち着いている戸川君が、息を弾ませて頬を紅潮させている様子は、誰が見ても相当嬉しいことがあったのだと分かる。

 私が彼からの告白に、思わず「うん」と返事をしてしまったのは、

 お酒が入っていたせい?
 
 恋の炎にアルコールを注いで燃え上がったから?

 明日には冷静になって。鎮火してしまうのだろうか?

 好きな人は自分の前からいなくなってしまう。

 それは、耐え難いほどに辛い......。
 
 いつしか居なくなってしまうのなら、最初から傍に居ない方がいい。

 優斗君が亡くなってから、私は恋に臆病になっていた。

 今も、お酒のせいとか言い訳をしている。

 「沙綾ちゃん?どうしたの?急に静かになって.......。うん、でも確かになんか照れくさいな」

 そう言って彼は、照れ笑いした。

 彼は私を必要としてくれる。だから、私は彼の傍に居よう......。

 好きな人が永久に居なくなってしまった悲しみは彼に味わってほしくない。

 でも、この想いって、やっぱり私は戸川君自身のことが本当に好きってこと?

 彼に優斗君の幻影を見出だしているのではなく?

 「俺は居なくならないよ。いつも、沙綾ちゃんの傍にいる」

 「......え?どうしたの?突然......」

 揺れる心を見抜かれてしまったのだろうか?

 今、自問自答した答えを戸川君の口から告げられた気がする。
 
 「分かるんだよ。好きな女(ひと)のことは。一瞬、君が不安そうな顔をした。さっきも言っただろ?沙綾ちゃんが、初恋の彼を忘れられないのは分かるって。俺、沙綾ちゃんのそういう気持ちも全部ひっくるめて、沙綾ちゃんを包み込むから」
 
 「戸川君......」

 散々、自分の気持ちを突っぱねてきたくせに。今は彼に甘えたい気持ちが先行してしてしまう。
 
 「保護者は辞めたけど、これからも沙綾ちゃんを守っていくことには変わりないから」
 
 長い間、寂しさを押し殺してきた分だけ恋の魔法にかかるのは早い。

 そして、彼は私達の未来に魔法をかけた。

 「俺と一緒に暮らそう」

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