拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 アフター6では同僚として食事に来た二人が、お店を後にするときには恋人同士になっている......。

 お店の人達は気がついている?

 彼と私の間に流れる空気が変わったことに。

 これから私達は一つ屋根の下で暮らすんだ......。

 成人した男女が同じ家で暮らす ーー。

 「結婚したみたいだ。俺達」

 彼の口から出た”結婚”という言葉がとても恥ずかしくて、私は口を閉ざして下を向いた。それなのに、彼はどんどん先を行く。

 「結婚式は、まだだけど。せめて誓いのキスがしたい......」

 「!!」

 結婚式って!誓いのキスって!

 展開の早さについていけないよ......っ!

 ーー 本当、胸の鼓動が追いつかない。

 ドキドキしすぎて倒れたら。私、また彼の家に運ばれるの?
 
 てゆうか、これからは。そこが”二人の家”になるんだ......。


 「キスしよう」

 今度は「うん」なんて、とても口にできない......。

 だから、本能で感じとってほしい。

 大通りにかかる長い橋の上は、平日の深夜10時ともなれば人通りが、ほとんどない。
 
 街灯のガラスの箱の中から覗いた光が幾つにも重なって、クリスタルイルミネーションを演出している。その繊細な光に照らされた彼の琥珀色の瞳 ーー。
 
 そして、その瞳の中に映る私の瞳。

 それほどまでに近づいた私達の距離......。

 風もないのに私の髪が揺れたのは、彼の指先が触れたから。

 「好きだよ......」
 
 唇を重ねる前に、彼は私へ愛の言葉を贈ってくれた......。
 
 目は口ほどにものを言う。

 彼は、すっかり口を閉ざした私の瞳の奥を覗き込んで気持ちを確かめた。

 私は彼の瞳から目をそらさずに気持ちを伝える。彼へ気持ちが伝わったと確信した私は、ゆっくりと瞼を閉じた ーー。
 
 すると、私の長い髪を辿るように彼の手は私の背中へとまわされて、そして私を強く抱きしめた。

 閉じた瞼に感じる外の光が次第に暗くなってゆくのは、彼の唇が私の唇へと近づきてきているから。

 その動作と比例するように、私は胸の鼓動が早くなっていった ーー。



 「んっっ」
 
 「......んっ」
 
 あまりにも優しく触れた彼の唇は、吹き始めた柔らかな初夏の風に溶け込んだ。

 知らなかった。

 これがキスというものなの?

 それとも彼とだから?

 ーー 好きな男(ひと)とのキスは優しい。

 「やっと、沙綾ちゃんを抱きしめてキスすることができた。俺以外の男に沙綾ちゃんが抱きしめられたり、キスされるのは嫌だ」

 そう言って、彼は私を抱きしめる腕に力を込めた。
 
 鼓膜に響く彼の息遣い、耳元に伝わる胸の鼓動。

 吐息交じりに彼は言った。
 
 「ずっと、俺の腕の中に居てほしい......」
 
 苦しいよ。

 そんなに愛されたら、私。戸川君の腕の中で溺れそう......。
 
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