蚤の心臓
眠れない夜に2人で並んで飲むリプトンのミルクティーとか、テレビから流れ続けるWHITE ASHとか、たまに彼が弾いてくれるSUICIDE SILENCEとか。踏み切りを超えてアパートの向かいにあるセブンまで行って買って来るハーゲンダッツとか。
彼から借りたワイシャツが明らかに出勤用のものだってとても気になっていたこととか。
落ち着かないけれど心地いい夜が私は好きだった。眠れないことを苦痛とは思わなかった。

たまに起きていることに疲れたらお互い肩を寄せ合わせて少しだけ休ませてもらう。
ねえと呼びかけられてうんと答えたら「好きだよ」と囁かれる毎晩の繰り返しに、不思議とウンザリはしなかった。
彼の方がどう思っているかは分からないけれど。

朝が来る頃、なんだかほっと安心してようやく彼は眠りに就くし私は私でソファにそのまま横になって目を閉じる。

夢を見ることはなかった。深い眠りに落ちることもできない。けれどそれで休まっているような気がした。
< 21 / 23 >

この作品をシェア

pagetop