God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
「右川、いる?」
ノリも桂木も居なかった。
永田、黒川といった、お馴染み強烈なメンバーだけは勢揃い。
「ややッ!敵だ!のろしを上げろッ!」
「明智光秀!ジーザス!シン・ゴジラ!」
「とうとう敵に魂を売り渡したか……ダーク・フレイム・マスター!」
知れ渡っているとは、一瞬で分かった。
パコパコと叩かれながら辺りを窺うが、右川は見当たらない。また授業開始ギリギリ、先生に隠れて駆け込んで来るのか。
「あんた、何で重森なんかに付いてんの?」
「キミの、らぶりん。右川は?」
「てゆうか、おまえ自体、出ないの?」
次々に質問を浴びて、「いや、それは……」言い淀んでいたら、永田がグイと俺の襟首を掴んだ。
「てめぇ。スイソー側に付くって事はどう言う事か。分かってんだろなッ」
1発は覚悟した。
「結果として、永田的にはよかったじゃん。強敵が1つ消えたと思えば」
黒川が、天使とも悪魔とも思えない援護をくれる。
確かに、そう取る輩もいるだろう。
「重森が3組っていうなら、オレだって5組に作るぜッ!」
対抗意識を丸出し。ふと見ると、黒川は何やら書類を前に唸っている。
聞けば、「永田に頼まれて演説の草稿」を練っているらしい。
「重森にはおまえ。永田にはオレ」という事らしいのだが。
「頼むゼ~、ブラザーK」
永田がヘラヘラと笑いながら、馴れ馴れしく黒川の頭を撫でた。
いつの間に、そこまで親密に。
見ていると、永田は黒川をすっかりアテにしているようで。
「こいつバカでポンコツだから」とか言われながらも喜んですがっている。
黒川も頼られて嬉しいのか、「オンナ欲しくて頑張ってる姿が切ないじゃん。というか、痛いじゃん。オレ様が色々教えてやるし」とは、理由になるような、ならないような。半分バカにされているとも知らず、永田は〝ブラザーK〟と呼んで黒川を慕っているけど。
「黒川だけって事は無いだろ。部員とか。応援、もう誰かに頼んでる?」
「そんなの、そのうち自動的に出て来んだろッ。殆どアニキの息が掛かってる奴らが。勝手にな」
現実、そうだろう。
永田の言い様から察するに、永田自身はそれを良しとは感じていない様だ。
永田にとっては、それが1番楽で、簡単で、都合がいい筈でありながら飛び付こうとはしない。
兄貴の存在を最高の後ろ盾と認め、その実、厄介だと感じている。
本心を見透かされたと感じて恥ずかしく思うのか、永田は目を反らして、
「いちいち部室に行くの面倒いから、ここで待っててやるぜッ。誰を3役にするかなぁ。やっぱ女子だな、巨乳の!」
そこで黒川と目を合わせて、ガハハと笑った。
その根拠のない自信とポジティブは羨ましい限りだ。
「沢村ぁ。オレの心配してる場合じゃないってばよッ」
何の事かと尋ねたら、
「オレはいいよ。オレはさ。でも向井と小野田と今井は、どーかなッ」
ウッと詰まった。
その3人は、永田と並んで血気盛ん、言いかえれば相当キッツい奴らである。
「夜道は気をつけろよぉ~」
黒川のそれを笑い飛ばせない。
ノリを用心棒に、行きも帰りも守ってもらおうか。マジで考える。
そこに右川が……ノリを従えて5組に入ってきた。目が合うと、毎度の如くギョッとして、ノリの背後に隠れる。おいそれと近づけないバリアを感じた。
右川にも、そして何故かノリにも。
ダテに10年来付き合ってはいない。俺はすぐに分かった。
何も聞かされていなかった事を……怒っている。
「おらおらァ!」と、ノリを押しのけた永田は、右川を引っ張り出して、
「右川!つーことで、おまえは、こっから出て行けよッ」
「何で?ここ、あったしのクラスなんですけど」
「だぁーかぁーらぁー、チビの応援拠点は他で作れッ!」
「だーかーらー、あたしは、やらないんですけどっ」
「それはやっぱり、沢村くんが抜けたから?」と、阿木が心配そうに、右川の顔を覗き込んだ。
右川にとって、俺にそこまでの影響力があると、周りが勝手に考えている事が不思議である。
そこで俺と目が合って、右川はビクビクと、再びノリの背後に隠れた。
「てゆうか、あれは沢村が勝手に言ってるだけ。もともとやる気ないもん」
「てゆうか、沢村があっちにコロッと寝返ったんで、ふて腐れてんじゃねーのかよッ」
右川の様子は分からないが、それより何より、目の前で永田に大声を浴びせられてもビクともしない、そんなノリの勇姿に、俺は改めて怒らせてしまった後悔と……白状しよう、ここにきて謎の期待感が膨らんできた。
「あの、もし良かったら、ノリが仕切ってくれないかな。右川の応援」
ちょうど抱えていた用紙の束を渡そうと進み出たところ、ノリは俺と永田を同等に捉え、右川との間を遮る壁となって立ちはだかる。
「その前に、右川さんに謝ってよ」
ノリは涙目で訴えた。
怒ると、キレて暴れるより、泣き出すタイプ。ガキの頃から変わってない。
「あれだけ期待して、無理言って、お願いして。なのに、重森なんかに加担するなんて。右川さんが可哀想じゃないか」
俺は息を呑んだ。
正直、ここにきてノリに責められる事が、1番堪える。重森をどうこう言えない。俺は、こっそりノリにだけでも事情を話しておけば。
「右川さんから、全部聞いたよ」
「何を?」
「マジで驚いた。洋士が暴力に訴えるなんて」
「そっちか。あ、や、それは違うんだって」
右川を見ると、その目は怯えて……いない。ノリという絶大な盾を得て、今は余裕に浸っている。どこまで味付けして語ったか知らないが、笑い飛ばす周囲と違って真面目なノリは、右川の話を真正面から受け止めてくれただろう。
「それはこいつの勘違い。100パーセント俺は悪くない」
「そうだとしても、洋士が、右川さんに謝るまで、僕は口きかないから」
そこで黒川がプッと吹き出した。「ボクぅ~おくちきかないからぁ~」と、ノリの言い様を真似て、イヒヒと笑う。
「ドラえもぉ~ん、おまえは、のび太かッ!?」
「う、う、うるさいよっ!」
ノリは顔を真っ赤にして俯いた。
俺がドラえもん?悪くない、とか言ってる場合じゃない。
「ノリ。あの、ごめん」
「僕じゃない。洋士が謝るのは右川さんだ」
ノリも桂木も居なかった。
永田、黒川といった、お馴染み強烈なメンバーだけは勢揃い。
「ややッ!敵だ!のろしを上げろッ!」
「明智光秀!ジーザス!シン・ゴジラ!」
「とうとう敵に魂を売り渡したか……ダーク・フレイム・マスター!」
知れ渡っているとは、一瞬で分かった。
パコパコと叩かれながら辺りを窺うが、右川は見当たらない。また授業開始ギリギリ、先生に隠れて駆け込んで来るのか。
「あんた、何で重森なんかに付いてんの?」
「キミの、らぶりん。右川は?」
「てゆうか、おまえ自体、出ないの?」
次々に質問を浴びて、「いや、それは……」言い淀んでいたら、永田がグイと俺の襟首を掴んだ。
「てめぇ。スイソー側に付くって事はどう言う事か。分かってんだろなッ」
1発は覚悟した。
「結果として、永田的にはよかったじゃん。強敵が1つ消えたと思えば」
黒川が、天使とも悪魔とも思えない援護をくれる。
確かに、そう取る輩もいるだろう。
「重森が3組っていうなら、オレだって5組に作るぜッ!」
対抗意識を丸出し。ふと見ると、黒川は何やら書類を前に唸っている。
聞けば、「永田に頼まれて演説の草稿」を練っているらしい。
「重森にはおまえ。永田にはオレ」という事らしいのだが。
「頼むゼ~、ブラザーK」
永田がヘラヘラと笑いながら、馴れ馴れしく黒川の頭を撫でた。
いつの間に、そこまで親密に。
見ていると、永田は黒川をすっかりアテにしているようで。
「こいつバカでポンコツだから」とか言われながらも喜んですがっている。
黒川も頼られて嬉しいのか、「オンナ欲しくて頑張ってる姿が切ないじゃん。というか、痛いじゃん。オレ様が色々教えてやるし」とは、理由になるような、ならないような。半分バカにされているとも知らず、永田は〝ブラザーK〟と呼んで黒川を慕っているけど。
「黒川だけって事は無いだろ。部員とか。応援、もう誰かに頼んでる?」
「そんなの、そのうち自動的に出て来んだろッ。殆どアニキの息が掛かってる奴らが。勝手にな」
現実、そうだろう。
永田の言い様から察するに、永田自身はそれを良しとは感じていない様だ。
永田にとっては、それが1番楽で、簡単で、都合がいい筈でありながら飛び付こうとはしない。
兄貴の存在を最高の後ろ盾と認め、その実、厄介だと感じている。
本心を見透かされたと感じて恥ずかしく思うのか、永田は目を反らして、
「いちいち部室に行くの面倒いから、ここで待っててやるぜッ。誰を3役にするかなぁ。やっぱ女子だな、巨乳の!」
そこで黒川と目を合わせて、ガハハと笑った。
その根拠のない自信とポジティブは羨ましい限りだ。
「沢村ぁ。オレの心配してる場合じゃないってばよッ」
何の事かと尋ねたら、
「オレはいいよ。オレはさ。でも向井と小野田と今井は、どーかなッ」
ウッと詰まった。
その3人は、永田と並んで血気盛ん、言いかえれば相当キッツい奴らである。
「夜道は気をつけろよぉ~」
黒川のそれを笑い飛ばせない。
ノリを用心棒に、行きも帰りも守ってもらおうか。マジで考える。
そこに右川が……ノリを従えて5組に入ってきた。目が合うと、毎度の如くギョッとして、ノリの背後に隠れる。おいそれと近づけないバリアを感じた。
右川にも、そして何故かノリにも。
ダテに10年来付き合ってはいない。俺はすぐに分かった。
何も聞かされていなかった事を……怒っている。
「おらおらァ!」と、ノリを押しのけた永田は、右川を引っ張り出して、
「右川!つーことで、おまえは、こっから出て行けよッ」
「何で?ここ、あったしのクラスなんですけど」
「だぁーかぁーらぁー、チビの応援拠点は他で作れッ!」
「だーかーらー、あたしは、やらないんですけどっ」
「それはやっぱり、沢村くんが抜けたから?」と、阿木が心配そうに、右川の顔を覗き込んだ。
右川にとって、俺にそこまでの影響力があると、周りが勝手に考えている事が不思議である。
そこで俺と目が合って、右川はビクビクと、再びノリの背後に隠れた。
「てゆうか、あれは沢村が勝手に言ってるだけ。もともとやる気ないもん」
「てゆうか、沢村があっちにコロッと寝返ったんで、ふて腐れてんじゃねーのかよッ」
右川の様子は分からないが、それより何より、目の前で永田に大声を浴びせられてもビクともしない、そんなノリの勇姿に、俺は改めて怒らせてしまった後悔と……白状しよう、ここにきて謎の期待感が膨らんできた。
「あの、もし良かったら、ノリが仕切ってくれないかな。右川の応援」
ちょうど抱えていた用紙の束を渡そうと進み出たところ、ノリは俺と永田を同等に捉え、右川との間を遮る壁となって立ちはだかる。
「その前に、右川さんに謝ってよ」
ノリは涙目で訴えた。
怒ると、キレて暴れるより、泣き出すタイプ。ガキの頃から変わってない。
「あれだけ期待して、無理言って、お願いして。なのに、重森なんかに加担するなんて。右川さんが可哀想じゃないか」
俺は息を呑んだ。
正直、ここにきてノリに責められる事が、1番堪える。重森をどうこう言えない。俺は、こっそりノリにだけでも事情を話しておけば。
「右川さんから、全部聞いたよ」
「何を?」
「マジで驚いた。洋士が暴力に訴えるなんて」
「そっちか。あ、や、それは違うんだって」
右川を見ると、その目は怯えて……いない。ノリという絶大な盾を得て、今は余裕に浸っている。どこまで味付けして語ったか知らないが、笑い飛ばす周囲と違って真面目なノリは、右川の話を真正面から受け止めてくれただろう。
「それはこいつの勘違い。100パーセント俺は悪くない」
「そうだとしても、洋士が、右川さんに謝るまで、僕は口きかないから」
そこで黒川がプッと吹き出した。「ボクぅ~おくちきかないからぁ~」と、ノリの言い様を真似て、イヒヒと笑う。
「ドラえもぉ~ん、おまえは、のび太かッ!?」
「う、う、うるさいよっ!」
ノリは顔を真っ赤にして俯いた。
俺がドラえもん?悪くない、とか言ってる場合じゃない。
「ノリ。あの、ごめん」
「僕じゃない。洋士が謝るのは右川さんだ」