God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
掲示板前。
ノリ、黒川、さっそく永田も大集合。ガラガラガラガラ♪大騒ぎだ。
永田が大声をあげて、そこら中のバスケ部員が集まる。あっという間に一団ができた。誰だか、この寒いのに上着も着ないで半袖シャツ1枚で、慌てて出てきて……今年も、やる気か。ばんざーい。ばんざーい。ばんざーい。
ふと気が付くと、パソコンが、机が、小刻みに揺れている。地震ではない。
遥か遠くから、ドシンドシンと響く大きな足音がして、その地響き。
その足音は3組でピタリと止まった。さっきまで外に居たと思ったのに。
「てめえーッ!」
そこら辺の机をなぎ倒し、1人2人と転がしながら、永田が乱入。
重森が、顔面蒼白で俺の背後にサッと隠れる。
公示日を迎えて、とうとう直接対決か。それもいいな。
重森の1ラウンドKO勝ち。バカは頭脳には勝てない(と、信じたい)。
「おい沢村!あのバカを何とかしろよ」 
背後で怯える重森を肩越しに眺めて、「面倒くせ」と鼻で笑った。
どんどん青ざめる重森を見て、笑いが込み上げる。いい気味~♪
俺は笑ったまま、そのまま、突然、体が宙に浮いた。
と思ったら。
永田に首を掴まれ、引きずられ、そのまま黒板に体ごと持って行かれて激突。
シャツのボタンが飛ぶ……キレイな星……遅れて鼻先辺りにジーンと痛みが響いてきた。
「沢村ぁッ!おまえ、いっぺん死ねよッ!死んでくれよッ!」
「何で……相手が……違うだろ……」 
「スカした顔すんな!笑ってんじゃねーッ!殺すゾっ!」
永田がグイグイと首を締め上げてきて、もう本気で殺されると思った。
「わ、笑ってないよ。悪かった、バカとか言ってゴメン、重森じゃない、おまえが勝つから」
永田は、俺をその場に放り投げた。
顔を上げると、永田を筆頭にバスケ部員女子も男子も、黒川、ノリ、その他色々まで雁首そろえて一同にやって来ている。
黒川は暴れる永田を羽交い絞めで押さえ込んで、
「オレ、今回ばかりは永田の味方だから」
「今更何だよ。おまえはいつも俺以外の味方だろ」
「ブラザーKを侮辱すんなッ。この、ヘタレ野郎くそバレー部がッ!」
「そのKだって、くそバレー部なんだよ!」
永田が目を剥いて襲い掛かって来る。思わず両腕で頭を庇った。
そこにノリがやってきた。
バレー部が言われては黙っていられないとばかりに、その表情には力がみなぎって見える。
「よかったー……助けてよ」
俺はノリに、すがった。だが、ノリはその表情をピクリとも動かさない。
「洋士は、全然反省してない」
「え。何?」
怒ってる?
何で?
「僕は……もう洋士なんか知らないからなぁ!」
ノリは半泣きで怒り散らすと、ピューッと教室を飛び出して行った。
昨日、あれだけ劇的な和解をしたばっかりなのに……もう何が何だか。
ノリの背中を打ち消すように、そこに真横から阿木の姿が差し込んだ。
「はい。これは重森くんの分」
俺は阿木の手から書類をもぎ取ると、それをクリップの付いたまま、3組教室の隅で縮こまって、斜めに構えて様子を窺っている重森に放り投げた。
「これぐらい自分でやれよ」
こうなったら言わせてもらうとばかりに突き付けた。
「そうね。こうなったら全部自分でやらないと、今の所、誰も手伝ってくれそうにないみたいだし」と周囲を見渡しながら阿木は、「はい」と、また別の書類を俺に向けて寄越した。
「だーかーらー、あいつは出ない。俺も、もう何もしないんだって」
「てゆうか、立候補の掲示板、見たの?」
「知るもんか」
その瞬間、周囲の物音が3秒ほど途絶えた。
不穏な気配だけが、そこら中で騒ぎ始める。
黒川はポカンと口を開けたまま固まっているし、永田も手の勢いを引っ込めてこっちの様子を窺う。周囲の目は、もうそこら辺を泳いで落ち着かない。
……何だ?
永田は黒川を乱暴に振りほどくと、「わあああーッ!」と、雄叫びをあげて教室を飛び出した。阿木は、散らかった書類を拾い上げ、静かに机に置いて。
「公示。沢村くんも見て来た方がいいわよ。ちゃんとね」
いたずらっぽい目で見詰めた。
胸騒ぎがしてくる。
もしかして……あいつまさか、土壇場で行ってくれたか!
「マジか」
阿木がニッコリ笑うのを見届けて、俺は教室を飛び出した。
はやる気持ちで掲示板に向かう。
ついつい笑みが漏れて仕方がない。
そういうことなら重森なんてマジで、どうでもよくなる。
何もしない訳にもいかないから、ツマんないは卒業!
こうなったら俺の手で、右川を高みに引き上げて、ずっと支えてやろう!
掲示板の周り、人だかりは、ますます増えていた。まるでいつかの合格発表だ。
吹奏楽部もバスケ部も、軍団でその場を取り囲む。
『2年5組 右川カズミ』
グッジョブ!
確かにそこに右川の名前はあった。だが、親指を突き出して得意になっている場合でもなければ、単純に喜んでいる場合でもない。
みんなの目は違う所に奪われている。

『2年3組 沢村洋士』

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