God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
「まぁ、頑張れよ。右川さんと沢村。例えどっちに決まったとしても、僕の思い通りだ」
松下さんは感慨深く、ふぅーっと1つ大きな息を吐いて、
「双頭の悪魔は陥落寸前」
それを聞いた片頭の筆頭、永田さんはクッと笑うと、
「去年、俺が会長に決まった時、なんつったか覚えてる?」
「何だっけ?」
「ラスボス退治までとにかく経験値を稼ごう。ついでに武器も揃えておこう」
「で、僕が沢村を引き込んで」
「キヨリは自動的に取り込め、と」
そんな経緯、想像は付く。
「オリハルコンだの月剣だの、マニアックなゲーム・ヲタクで、俺は話題に困るんですが」
それを松下さんに言い訳させると、「受験生にはバカになる時間が必要なんだよ」らしい。
「沢村が武器というなら、キヨリは盾か?」と、永田さんが言うので、「案内役のポーターとか、似合いそうですよね」と、こっちも思わず加わる。
「武器は装備しないと意味がありませんよーって教えてくれる町娘Cとか、どうだろ?」
松下さんも生き生きと乗り込んで来た。(今ちょっとバカに見えました。)
「あいつはそんな優しくないって。〝装備してって言ったわよね?何聞いてんの〟」
さすが彼氏。その口調がやたら似ている。俺はプッと吹き出した。
松下さんだけは意味深にニヤリと笑って、
「へぇー、いつもそんな事言われてんのか。土壇場で」
「一応、攻撃の際は標準装備という事になってるからな」
これは。
……笑う所じゃない気がする。
引き攣りながら、言葉に困って俯いたのは、俺だけだった。
この次、阿木の顔を直視できる自信が無い。
思えば、この2人と、今まで1度もそこまで砕けた話題はなかった。
(ある意味、悔やまれる)
そこで、松下さんが去年の選挙で吹奏楽にブッ込まれ、部員に混ざってチェロを弾く羽目に(なりそうになった)という話題になり、それは知らなかったので、「マジですか」と、こっちは純粋に驚いた。
いつも何度も都合良く〝使われて〟そんな歴史は繰り返すのかと、少し複雑な気分になる。
「バスケ部からクレームが来たからって、それで黙らせたけど」
「てゆうか、俺を利用して逃げたんだろが」
「そうでもしないと今度はアイツが暴走して。そんなら特訓しなきゃ!とか言い出すし」
「松下の彼女はノリが良すぎる。沢村はウケ過ぎ」
松下さんの、あの彼女なら、さもありなん。
文化祭を思い出して、気持ち良く笑った。
あの時は。
その時は。
2人は次第にヒートアップ。そんな様子を眺めながら、事件とか思い出とか、そんなものを共有して笑い合うとか、そんな日が俺には来るだろうか。
……ノリと。
依然として、何も変わらず。
不意に、
「卒業まで、あと1か月かぁ」
その話題。敢えて、避けているのも限界があった。
「受験が無かったら、僕も選挙に絡んで大暴れしたかったな」
松下さんの、それを聞いた辺りから、もう胸の辺りが、おかしくなる。
「まー頑張れよ。というか、沢村自身が思いっきり楽しめばいいよ」
永田さんに、そんな事まで言われたら……ヤバい。
そこでチャイムが鳴り、永田さんとは放課後に会う時間を約束して、3年クラスを後にした。
慌てるフリで、込み上げてくる感情を誤魔化しながら……誰も居ない視聴覚室に飛び込む。
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