God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
2月10日~妬ましいくらい、ヤバい女子
〝攻めっ!オトコになります 沢村洋士〟(ユーリ作 BL仕立て)
〝斬るっ!一陣の風 沢村洋士〟(歴女大喜びのサムライ風)
〝ほら……こっちにおいでよ 沢村洋士〟(癒しの韓流モード)
どれも大体はイラストで、首だけ俺の顔が写真で貼り付く。
くるくると変わるポスターは、1部のマニアを喜ばせているらしい。
当事者の個人的感情は、気持ち良く無視されているものの、「あんたのクソ真面目な顔と、首から下のギャップが笑える!」と、身内にもおおむね好評だ。
2月10日。
1時間目が終わってすぐ、掲示板前。
桂木を手伝って、また新しいポスターに貼り替えた。
前回の韓流モードは、マジで1番恥ずかしい。
白いセーターと、パステルブルーのマフラー。その傍らには、ラブラドール・レトリーバー……こう言う時、思うのだ。パロディと思えない。これが違和感なく見えるという事実が、俺自身を薄ら寒くする。韓流ドラマをこよなく愛する母親には、絶対に見られたくない。
早々に丸めて閉じた。正直燃やしたい。
「ち、ちなみに、今回は?」と、恐る恐る桂木に訊けば、
「もう、アニ研が、張り切って張り切って」
パッと開いたポスターを見ると、
〝せとかい!入れようミラクル 沢村洋士〟
「けいおんのパクリか」
絵は上手い。そして、これまでで1番、色彩が鮮やかだ。さすが、アニ研。
俺はどの楽器を弾く羽目なのかと疑っていると、ボーカル&ギターにちゃっかりと収まっていて、ある意味、松下さんのチェロを笑えない展開である。
いつの物だか知らない顔写真、俺は眉間にシワを寄せて……シャウトと思えば、そう見えない事もないけど。いや、ひたすら恥ずかしい。
「次はどういう仕掛けかなーって、なんか楽しくない?」
と、桂木は大笑いである。そして、「こうやって研究会他、諸団体も、頼りにしております……沢村候補はちゃんと意識を向けてるって事をアピールしとこう」とくれば、もはや頭を垂れるしかない。
俺は周囲に誰も居ない事を確認して、あの、ポスターを破られた1件を切り出した。
「言ってくれていいのに。それくらいの事で凹んだりしないよ」
ポスターだけで済んで良かった。それなら命の危険は無い。
そう言って笑い飛ばすと、
「バスケの、身内の事だし。そんな恥ずかしくて幼稚な事して、重森とかにワーワー言われたくなかったし」
仲間を庇った。それで、こっそり片付けたと言う事か。
頭のいい桂木は、こっちの微妙な憂いもすぐに察して、
「それで結局、沢村にも迷惑掛けたくなかったから」
それが、ついでのように聞こえてしまうのは疑い過ぎ?
俺って、性格悪いのかな。
「桂木は大丈夫なの。周りの、女子とか」
すぐに、「藤谷さんの事?」と来て、「そうだよな。さすがに感づくよな」
頭の良い桂木ミノリは。
それも含めて部内の事情も、この際だから訊いてみる。
「色々あったけど。永田さんが協力してくれたお陰でバスケはもう大丈夫」
桂木の言うように、俺が永田さんと校内を歩いて以来、正確に言えば、永田さんがバスケ部武闘派に、「手を出すな」と釘を刺してくれて以来、それ以来、バスケ部の嫌がらせは消えた。
「藤谷さんも見ての通りだよ」と桂木は、貴族のようにお辞儀してオドけて見せる。それは永田さんではなく、桂木自身の〝上手さ〟のお陰では?
そう言って持ち上げたら、ちょっとは照れて見せるかと思いきや、
「上手いかどうかは分かんないけど」
貼り変えたポスターをぼんやりと眺めて、
「普段から、誰とも本気でちゃんと接してると、それが廻り回って、思いがけない所から助けられたりする事があって。だから、誰に対しても優しくするとか、丁寧に答えるとか、長い目で見たらムダじゃないって分かるんだよね。それが上手いって事なら……嬉しいかな」
思いがけず、真剣な顔を目の当たりにする。
これだ。
このハイ・クオリティは味方なのか。それとも、ゆくゆくは脅威なのか。
こっちは、「大丈夫なら。まーよかった」と、ツマんない気休めに終わった。
(クオリティを全く感じない。)
そんな俺の中の小さな疑惑の種。それを除けば、思えば全てが順調であった。
日替わりと言えばポスターだけでなく、校舎を練り歩くメンツも然り。
桐生&女子群、剣持を筆頭とする目立つ男子&女子の集団、バレー部員(黒川とノリ以外)などなど、どこでも主役そっちのけで歓声を浴びる。
順調。順調。
だが、
「あんたが主役でしょ?何引っ込んでるの?図々しく真ん中に入ってきなよ」
俺はどこでも藤谷にキツいダメ出しを喰らった。
小突かれながら手を振る笑顔はドンドン曖昧になる。
その日、休憩時間の活動を授業食い込み気味に切り上げて、4時間目の選択授業、クラスを移動してやってきた。
らす♪と、黒川がやってきて、「課題見せろやぁー、せとかい!」と、プリントを奪って、1番後ろの席に着く。(ポスターが早速、効果を上げている。)
俺は黒川の隣を借りて座り、課題を見せる見せないで争っていると、そこに阿木がやってきた。
阿木とは選択授業が重なっていない。
何かと思えば、「授業中に携帯でカマしてる奴らがいる、だってさ」
吹奏楽からそんなクレームが入ったと、それも先生に直接苦言を呈したらしく、そこから、違反を取り締まれと、選管に説教が降りてきたと告げられた。
「それって、俺ら?」
「ううん。バカの方。1組のバスケ部」
やりそうな顔が2~3人、浮かんだ。せっかく桂木が暴走の火消しに動いてくれたと言うのに。授業中の携帯使用もさることながら、それで応援活動などヤッてしまうのは、ご法度である。1つでもルール違反をすると、こうやって他陣営にすぐさまチクられる。「品格を下げる」「モラルを疑う」「会長の器じゃない」などなど突っ込まれ、周囲にバラ撒かれ、結果、命取りになるのだ。
< 36 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop