私、今日からお金持ち目指します?
「当日キャンセルは……返金無しだった」

ハーッと一気に力が抜ける。
結局、嘘でも詐欺でも、参加しなければ元が取れないということか……。

しかたが無い、と諦め、予定通りラウンジに足を進め、時間までお茶をする。当然、本日のイチオシと書かれたケーキも付けてだ。



午前十時十分前、私は会場のある北館三階のレストルームに居た。手を洗っていると、二人の女性が話をしながら入ってきて、私の横に立ち、化粧を直し始めた。

「勝利様のセミナー、お久し振りね」
「新規事業でお忙しかったからでしょう」

どうやら彼女たちは上条勝利のファンのようだ。彼の事情を良く知っている。

そうか、初めての講師、というわけではないのだな、とちょっとホッとしていると……。

「今回は六日間!」
「おまけに、一日五時間も!」

二人は顔を見合わせ、「勝利様を見ていられるって、最高!」と嬉々とする。

エッ、あんな高額な受講料を払い高倍率を通過したにも関わらず、見ていられる? 学びはどうした! 何を考えているのだ?

二人はキャッキャッと声を上げながらレストルームを出て行く。

まさかこんな輩ばかりじゃないだろうな、と思いつつ、もし詐欺ならそれもあり得る、と気持ちが暗くなる。

それでも帰るわけには行かない、と重い足を引きずり中ホールに入る。
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