君の思いに届くまで
「俺は・・・いるよ。あきらめられない人」

その返事は私には意外だった。

学生の頃から人気のあった健だけど、浮いた噂が一つもなかったから。

しょっちゅう飲みに行く私でさえ健に女の影なんて全く見えなかった。

部活や仕事に一直線タイプで、今はそういうこと考えられないって言ってたのに。

実はちゃんと思いを寄せる相手がいたんだ。

「そうだったの?私にはずっと誰もいないっていってたのに」

「そんなの、お前に言うわけないじゃん」

「どうして?私と健の間なのに」

「どうせ、お前は真剣に取り合わないだろ?俺の恋バナなんて」

「そんなことないよ。いつも聞いてもらってばっかだし、なんでも相談してよ。で、誰よ、その相手って」

私は興味津々で黙っている健に突っ込みを入れた。

「言わない」

断固とした声が私の耳元に響く。

「いつだって応援するのに」

「いいんだ、俺は自分のことは自分で解決するから」

「大人ねぇ」

半分残念に思いながら、首をすくめて小さく呟いた。

健は静かに続けた。

「ヨウの恋が完全に成就して、俺なしでもやっていけるって確信したときは教えてやるよ。俺の相手」

「そうかぁ。私の恋が完全に成就するなんて、まだまだ先の話だわ」

健は鼻で笑った。

いつの間にか私の泣きそうな気持ちはどこかへ行ってしまっていた。

そうやって、私の気持ちをいつも支えてくれている健の存在は私には大切だ。

いつか、必ず健のために何かしてあげようって思っている。

明日の朝も仕事で早いからと言って健の電話は静かに切れた。

「ありがとう」

切れてしまった電話に向かって呟く。

いつもちゃんとありがとうって言えてない。

伝えるのが照れくさいのもあったけど、いつも私がお礼を言う前に健の電話はすぐに切れるんだよね。

自分の中で少し吹っ切れた気持ちになって、その日は久しぶりにぐっすり眠ることができた。










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