君の思いに届くまで
「琉、なの?」

自分の声が自分じゃないみたいにかすれていた。

琉は私の手をぎゅっと握り締めて頷いた。

「ほ、んとうに?」

「ああ」

「うそ」

そんなの信じられない。

ついちょっと前まで琉は私の知ってる琉じゃなかったのに。

どうして?

いっぱい聞きたいのに、頭が回らなくて言葉にならない。

ただ、涙がとめどなく溢れて頬につたう。

琉はそっとその涙をぬぐってくれた。

「動物園の駐車場でびしょぬれの君に『琉』と呼ばれた時」

一呼吸あけて続けた。

「まるであの日みたいに雨に濡れ不安な顔をしていたヨウを俺は間違いなく知っていると気付いた」

そう言うと、琉はそっと目をつむる。

私の手を自分の頬に当てながら。

「無我夢中でびしょぬれになった君を抱き締めた時、俺の心の傷からさっきのフレーズが飛びだしてきたんだ」

琉はゆっくりと目を開け、私をじっと見つめた。

「動物園の時って・・・。どうして今日までそのことを伝えてくれなかったの?」

「ヨウの記憶が一気に蘇った時、それは狂おしい程に愛しい思い出だけど、それど同時にヨウを深く傷付けた記憶でもあった。ヨウの苦しみを思うといても立ってもいられないくらいに苦しくなったんだ。誰かを深く裏切った傷は簡単には癒えない。だから、俺はすべての記憶が戻ったことをヨウに言えなかった。俺が思い出すことで、またあの古傷がヨウを苦しめることになりやしないかって。それよりも、このまま新しいヨウとの関係を築く方がヨウは幸せなんじゃないかと思った」

琉は言葉を詰まらせた。


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