君の思いに届くまで
「健?どうしたの?アメリカ行きそんなに不安?」

健は真剣に問いただす私から顔を背けて、「ぷっ」と吹き出した。

「お前は相変わらず一筋縄じゃいかない奴だよな」

「一筋縄?」

健が何に対して言ってるのか、吹き出しているのかわからなかった。

「ごめん。手、握ったりして」

健はその手をゆっくりと離した。

とてもきつく握られたせいか、私の手はその後もしばらくジンジンしていた。

「琉とうまくいくよう祈ってるよ」

健がそうやって私を突き放したような言い方をするのも初めてだった。

「怖がってちゃ、何も始まらないぞ。俺が言うのもなんだけど」

「・・・そうだね」

私は空になったグラスを見つめながらつぶやいた。

結局、今を解決するのは自分しかいない。

解決しないっていう選択を選ぶのも自分なんだよね。

わかってるけど、誰かに後押ししてもらいたかった。

いつもみたいに、何でもないことのように健にポンって背中を叩いてもらいたかっただけ。

「俺、明日も早いんだ。そろそろ帰るか」

「あ、うん。忙しいのに今日はありがとう」

私達は席を立ち、お店を出た。

駅までの道のりは月曜日とあって、人気が少ない。

これが金曜だともっと賑わってるんだけどね。

「また健の送別会しよ。ダイとかサナエも誘って」

「ああ、うん。そんな時間あるかな。また俺からダイにでも連絡いれとくよ」

何も言わず二人並んで、街灯のポツンポツンとした明かりに導かれるままゆっくりと歩く。

駅前の公園にさし掛かった時だった。

突然、私の体がふわっと抱きしめられる。

気がついたら私は健の腕の中にすっぽりと治まっていた。

健の熱い鼓動が私の頬に伝わってくる。

「好きだったよ。ヨウ。お前のことずっと好きだった」

「え?」

う、嘘でしょ?

お酒の酔いが一気に引いていく。

「幸せになれよ。絶対」

健の体が私から離れる。

健は清々しい表情で笑っていた。

「恐くたって、不安だって、結果はどうであれ、前に進め。それしかないんだよ、きっと」

笑顔のまま右手を挙げて私に向かってその手を振ると、駅の方に向かって走って行ってしまった。

呆然と、健の後ろ姿を見送った。

嘘、嘘、嘘。

心の中で何度もつぶやく。

こんなことってあるの?

ずっと健は私の男友達で、親友だった。

どんなときも話を聞いてくれて、励ましてくれて、時には叱ってくれて。

私の事が好きだったって?

自分の不甲斐なさに胸の奥からむせかえるように涙が溢れ出した。

再び出会った愛しい琉と、去って行く大切な友人、健。

「・・・前に、進まなきゃね」

バッグからハンカチを取り出すと、駅に向かって一歩踏み出した。





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