君の思いに届くまで
8章
8章


琉と手を繋いだまま路上に停めた車に戻った。

何も言わず琉は車のエンジンをかけ、静かに発進させる。

家はロンドン郊外にあると言ってた。

石畳の賑やかなロンドン市内を抜けると一気に暗闇が押し寄せる。

ポツンポツンと家が並び、真っ暗な森を抜け、しばらく走らせた。

「どうしてこんなに暗いの?」

と尋ねると、

「今、夜で見えてないけど、ここには広い牧場があるんだ」

牧場。

家の近くに牧場なんて、やっぱりここは日本じゃないんだなって。

でも、そういう場所に生きてる琉がどうしようもなく愛おしかった。

「大丈夫?」

琉は静かに尋ねた。

「大丈夫」

私はすぐに答えた。

何に対して大丈夫と尋ねているのかはよくわからなかったけど、今琉のそばにいるっていうだけで大丈夫だと思えていた。

牧場を抜けると、また住宅街に入っていく。

家の明かりが温かく瞬いていて、まるで私を歓待してくれてるように見えた。

そう思いたかったのかもしれない。

その住宅街のかわいらしい家の前に車は停車する。

「ここ?」

暗くてよく見えないけれど、オレンジの屋根がのった家は想像していた以上に大きくて、家の前には牧場さながらの広い庭が広がっていた。

「入って」

車を降りるとすぐに家の扉を開けてくれた。

真っ暗な部屋の中を琉は突き進み一番奥のリビングらしき部屋に入った。

温かい光がリビングを照らす。

「うわぁ!」

とても広くて、おしゃれなアンティーク家具やソファーが置かれた部屋に思わずここが琉の家だということも忘れて興味深く見渡してしまった。

「ヨウにとってここはそんなに新鮮?」

琉はキッチンでお湯を沸かしながら、くすりと笑った。

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