君の思いに届くまで
「言えません」

気がついたらそう答えていた。

足が僅かに震えている。

だって、今の琉に伝えたら本当に琉のことは思い出になってしまう。

私を愛した、私が愛した琉が消えてしまうから。

琉が私を思い出すまで言いたくない。

琉は「そうか」と呟くと深いため息をついて残っていた紅茶を飲み干した。

「いつか思い出して下さい。私のこと」

恐いくらいに琉の目を見つめた。

琉の口元が自嘲気味に緩む。

「情けないな。君を傷付けてるんだね。今の俺は」

「でも、峰岸教授も傷ついてます。きっと私以上に」

琉の目が私を見つめていた。

何か必死に探すような目で。

「君の手を握ってもいい?」

そう言うと、琉はテーブルの上に置かれた私の手をぎゅっと掴んだ。

琉の冷たくて細い指が私の小さな手を包み込む。

体中に電気が走ったみたいだった。

大好きな琉の手。

私を何度も愛してくれた手。

「ヨウの手はとても柔らかい。そして熱いね」

琉は両手で私の手を包んだ。

泣きそうになる。

確か、そんなこと琉に言われたことあったっけ。

あの時は笑いながら、「ちっちゃいよな」なんて言いながら。





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