君の思いに届くまで
11章
11章


琉の手が私の手をしっかりと包んでいた。

冷たかった琉の指先が次第に熱くなっていく。

恥ずかしさと苦しさと戸惑いが私の心の中をぐるぐると回っていた。

私の手はジンジンとしびれている。手が何かを必死に訴えてるようなそんな感じだった。

琉の手をもうほどきたくない。

この手が離れてしまったら、また教授と秘書の関係に戻ってしまうような気がして。

「ヨウ」

「はい」

琉の手を見つめながら答える。

「君の手はとても気持ちがいい。安らぐというか。初めてじゃないような気がする」

私は琉の言葉を静かに受けとめていた。

少しずつでもいいから、思い出してほしい。

「初めてじゃないです」

「そうか」

そう言いながら、琉はそっと私の手から離れた。

思い出せないんだね。

仕方のないことだけれど、その手だけでももう少し繋がれていたかった。

「これからも二人きりで時々会ってもらえる?」

琉はまっすぐ私を見つめながら言った。

「俺の事故前の記憶を共有する君ともう少し一緒の時間を過ごせたら何か大事なことを思い出せそうなんだ」

「もちろんです。いつでも声かけて下さい」

本当ならずっと一緒にいたっていい。

胸の奥が熱くなった。そんなこと言ってくれるなんて、すごく嬉しかった。

例え今は私を思い出せなくても。

紅茶を飲み終え店を出ると、琉は私に選んでもらいたいものがあるからと再び私を乗せた車を出した。


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