君の思いに届くまで
車は路地を抜け住宅街の一角を走る。

いわゆる高級住宅街の中にポツンと洋風チックな佇まいの建物が見えてきた。

「あそこだよ。日本に来てすぐドライブしていた時見つけたんだ」

その建物の前に車を停める。

お店の中にはイギリスの高級雑貨が所狭しと置かれていた。

以前訪れた琉の家の中の雰囲気を彷彿させる家具も何点かある。

「アンティークですか?」

「家具の一部はアンティークらしいけど、その他は新品だ。雑貨は割と最近のものも入ってきているらしい」

「そうなんですね」

素敵な雑貨を二人で見ながらゆっくりと店内を散策した。

まるでデートみたいだ、なんて思いながら。

琉と二度目の出会いをし、そして今二人で並んで歩いている。

不思議な気持ちがしていた。

「ヨウは研究室でドリンクを飲むとき、いつも紙コップで飲んでるだろ?」

「ええ、教務で買ってもらえるので」

「せっかくおいしい紅茶を煎れても紙コップじゃなぁって思ってね。君にマグカップをプレゼントしたくて」

「え!そんな紙コップで十分です」

そんなこと思ってたんだ。

私がいつも自分の紅茶を煎れてる時。

そんな思いやり深い視線の向け方はあの時と変わらない。

「俺も自分用に買おうと思ってる。俺だけって言うのもなんだからさ。ここはプレゼントさせてもらえないか?」

琉は少し困ったような顔をして私を見つめていた。

「じゃ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

自分の顔が上気しているのがわかった。

琉は優しい目で頷くとたくさん並べられた素敵な柄のマグカップを前に「選んで」と言った。





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