君の思いに届くまで
12章
12章


健に話を聞いてもらってからは気持ちが少しだけ楽になっていた。

立花教授も学会に出たりコマ数が増えたりと忙しくて、私もその忙しさに便乗するように毎日を過ごしている。

夏休み前のそんなある日。

立花教授から、ヨークのマミィから手紙が来ていて、ヨウと一緒に遊びにいらっしゃいと書かれてあったがどうするかと聞かれた。

今年もまたイギリスへ?

琉のいないヨーク。

教授は、旅行がてら奥さんを連れて行くらしい。

私の返事待ちだった。

正直、もう一度マミィに会いたかったし、偶然琉と会えるかもしれないという淡い期待がなかったと言えば嘘になる。

「行こうかな・・・」

私がそう呟くと、教授は嬉しそうに笑った。

「実はイギリス留学からあまり元気がないなと心配していたんだ。イギリスでよほどショックなことがあったんじゃないかってね。でも、瑞波さんがもう一度行きたいと言ってくれたら僕も安心だよ。もう大丈夫ってことかな」

大丈夫ではないけれど、いつまでもイギリスで起きた事を引きずっているのも嫌だった。

もう一度行けば、何か自分の中で変わるのかもしれない。

振り出しに戻ったら見えてくる者もあるって昔誰かが言ってた。

健だったかな。

教授は8月のあたまから10日間の日程でイギリス行きの行程を組んだ。

もちろん行き帰りの飛行機は一緒だけど行程は別々だ。

私はマミィの家に泊まらせてもらえることになった。

1年ぶりにマミィに会えるのは嬉しい。

こちらには何でもあるから、身軽で来なさいとマミィが手紙をくれた。

私のもう一人の母のような存在が異国の地にできたということは、なんて幸せなんだろう。

旅行バッグに最低限の荷物だけ入れて教授夫妻と日本を飛び立った。







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