瞬くたびに
うつむいて黙ってしまった結々に気づいてか、葵は慌てて言葉を繋げる。

「ごめん、暗い話しちゃったね。明るい話をしようか。せっかくのクリスマスだし」

葵が明るい口調で言う。

結々も笑顔を返すと、声を弾ませた。

「先輩、私、この間できたばっかりのお店に行きたいです」

「ああ、あのイタリアンの?」

「はい!」

「じゃあ、夕飯はそこにしようか」

時間を共に過ごすたび、葵のことを知っていく。

葵が過去にどこへ行ったのか。

何をして、何を思ったのか。

そして、晴那のことをどれだけ好きだったか。

ふと顔を上げた先にあるショーウィンドウに、二人の姿が映っている。

肩を寄せ合い歩く二つの影は、まるで本物の恋人同士のようだ。

イルミネーションの溶ける景色を背景に、そのシルエットは、葵への気持ちがまだ憧れだった頃の結々が夢見ていた姿のはずであった。
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